2020年 10月 25日
地の塩の道②「信州風の家までの25㎞」 |





実は今回、「天神道越え」の最終部分の道のりが見つからず(言い訳になるが、標示が倒れたりルートが明示されていなかったのだ・・・)30分近く迷った後、やむなく国道148号のトンネル約1㎞を徒歩で抜けることになった。
正直、この道だけは歩きたくなかった。この国道は松本など内陸部から日本海側へ抜ける幹線で、大型トラックが猛スピードで走り抜けていく。だから歩道が設置されているとはいえ、その際の轟音と風圧は凄まじい。ホコリも舞うし内部の空気も決してキレイではない。実際は15分ばかりの歩行だが、気分的には30分ぐらいに感じた。しかしトンネルを抜けて改めて考えた。このイヤなトンネル歩行も貴重な体験かもしれないと。
ここを猛烈な勢いで走り抜けるトラックも、そしてそれらの短時間移動を可能にするトンネルも、現代の経済活動を円滑に動かすためには欠かせない。実際私たちはその恩恵を受けている。静寂の中にある山道と、轟音鳴り響くトンネル内の対比...それは、塩の道を歩いて荷物を運搬していた時代と現代社会の違いであり、かつて人々が持っていた精神性と現代社会の精神性の違いをよく表しているのかもしれない。加えてトンネル内のすさまじい喧噪は、私たちが現代社会で追い求めている効率性や利便性の“陰の実像”を可視化しているかもしれないのだ。
だとすれば、この過酷なトンネル体験も、現代社会の私たちのあり方をもう一度見つめ直す良い機会なのだろう。もし正規ルートが見つかったとしても、状況に応じてはこのトンネルをあえて歩くことも意味あるようにも思う。
追記すればこの翌日、改めて地図で確認して、前日見つからなかった正しいルートの山道を約45分かけて歩き直した。そこは静寂と木漏れ日に包まれた世界。しかし一方で、急斜面もあり不便な道でもある。途中、「三峯様」と呼ばれるカヤで作られた素朴な社(やしろ)が三つ、立派な杉木立のもと静かにたたずんでいた。日本文化の根底を流れる聖性を感じさせる神秘的な場。ここを訪れるのも貴重な体験となる。「地の塩の道」ではトンネルを歩くのか、あるいは正規の山道を歩くのか...今もまだ悩んでいる。
by itokoshi
| 2020-10-25 01:48