2020年 06月 02日
「黒壁は泣いている」 |
ところで、写真のように「信州風の家」の漆喰の外壁はだいぶ黒ずんでいる。普通漆喰は白色なので、以前、左官さんと外壁修理の相談をしていた際には「近くの”松本城”を真似て黒くしたのかもね」などと笑いながら話していたこともあった。そこで今回、仕事前にOさんに気軽な気持ちで尋ねてみたのだ。「どうしてここの外壁は、あんなに黒くなってるんですか?」と。するとその答えは意外なものだった。「それは戦争中、”白壁は目立つ。敵の飛行機に狙われるから黒く塗れ”と言われたからだよ。強制的にね。においの臭い特別な肥料を使って黒く塗ったんだ」。ショックだった。まさかこんなところに戦争の記憶が刻まれているとは。壁の黒さをひときわ濃く感じた。
その後、畑仕事をしながらOさんは次のような話もしてくれた。「終戦前、私が10歳の頃だ。ある夏の暑い日に国民学校で朝礼があった。直立して教育勅語を皆で唱えたり、長くてねえ。暑さでフラフラして、倒れてしまうのも出てきた。それで早めに朝礼が終わり、俺たちは男子の教室に帰った。中には床に倒れて吐いちゃうのもいたよ。そしたらその時・・・その中の、ある疎開で来てるやつが床で何かゴソゴソやってるんだ。不思議に思って何やってるのかよく見たら・・・そいつは、自分が床に吐いたのを、手で集めて食べてたんだよ。床に吐いたのを。それだけじゃない。別の疎開してきたやつも同じことをしてた。・・・あいつら、よほど腹が減ってたんだよ。可哀想だった。遠い親戚を頼ってこの村に疎開に来てたんだ。あれは本当に可哀想だった・・・」。
目の前にいるOさんが子どものころ。それは遠い昔のことじゃない。この村ではそんな現実があった。幼い子供たちが泣いていた。そして黒く塗られたこの壁も泣いていた。
by itokoshi
| 2020-06-02 20:27